個性溢れる物語

フィクションです。

No.6 驚高の殿堂

 ハロウィンの日に似つかわしい不気味な色の空が広がっている。私は数週間程前に舗装されたばかりの綺麗な歩道を少し俯き加減で歩いている。16時を回ったところであるようだ。最近は日が短くなってきて、ついこの前まで明るかったこの時間の空もすっかり暗く感じる。友人と言えるほどの友人を持たない私は一人寂しくハロウィンパーティーをしようと画策していた。そのことで頭の中はいっぱいになっていた私は、目の前に突如現れた黒塗りのカラスに気付くのが遅れてしまった。彼の名はカラス。鳥だ。どうやら羽根に傷を負っているようで苦しそうな顔をこちらに向けていた。時間がない私は少し戸惑いながらもカラスを避けて進むことを決意した。

 3日前に成人を果たした私はまだ自分の誕生日を祝ってさえいなかった。そのため今日この日をハロウィンパーティー兼誕生日パーティーに設定した。20歳となった今、狙うのはもちろんセイクで優勝だ。

 最寄りのデン・キホーテに着くとすぐにワインが陳列されている売り場に向かった。ブルゴーニュにするかボルドーにするか、腹を抱えながら悩んでいた。10分が経過しても結論が出ないため、一旦それは保留し食材を探しに食品売り場へと旅立った。幸いにもカボチャは家庭菜園で育てていたため買う必要はなかった。ハロウィンと言ってもカボチャ以外に何を食べれば良いのか分からなかった私はフライドチキンを購入することに決めた。そして主食はパエリアにしたかったので魚介類を籠に入れた。海老、イカ、ムール貝、アサリ。これをただ入れて炊いても、しょうもない飯が炊き上がるだけなのでターメリックサフランも忘れずに籠に投入した。

 食材を買い終えワイン売り場に戻るとコビトカバが歩いていた。ペット持ち込み禁止の店内をコビトカバが歩く様子は極めて異様だ。さらに飼い主は見当たらない。私は戸惑った。とりあえず放っておくわけにもいかないので先ほど籠に入れたばかりの海老が入った容器を彼の背中に乗せた。すると彼は嬉しそうな表情でこちらに顔を向けた。オブラートに包まれたような笑顔に翻弄された私はボルドーの赤ワインを手に取り彼と共にレジに向かった。途中で誰かに「ペット持ち込み禁止やぞ」と声を掛けられたがペットじゃないわけだし迷うことなく無視した。結局6万3,050円を消費した。驚く程に高額だ。少し気を落としながら店を出ようとした時だった。私の通過と同時にセキュリティゲートが大きな音を立てた。近くにいた店員がすぐに私を取り押さえた。なぜだ?会計は済ませたはずである。何も状況が飲み込めないまま奥の部屋に連れていかれた。

 私はありのままを話した。バッグの中身もチェックされたがもちろん異常は見つからなかった。椅子に腰掛けている時に足元にはまだあのカバがいることに気付いた。何か言いたげな瞳でこちらの様子を伺っているようであった。尋問が終わり店員に連れられ店を出ようとした。すると。ビビービビーッッ!再びセキュリティゲートは作動した。これには店員の頭の上にもクエスチョンマークが浮かんでいる。困惑した店員はどうやらバイトの人間のようだ。彼は焦りながら遂に店長を呼んだ。2分ほど経ったところで40歳半ばに見える紳士がこちらへ出向いてきた。彼が店長であり豪華客船の船長も務めているという佐藤であることは胸に付けた名札を見れば容易く分かることだった。店長はバイトの店員に言い放った。

「ちゃんと確認したのか。こいつ顔から判断してもどう見ても万引き犯だぞ。」

 私は込み上げる怒りを抑えながら彼らの会話に耳を済ましていた。その間、なぜこんな自体になってしまったのか深く考えることもした。例によって足元にはコビトカバがまるで媚を売るような愛くるしい表情でこちらをじっと見ている…は?私はとんでもない事に気付いた。彼の背中には海老の入ったパックが乗っている。果たしてこれの会計はしたのだろうか?記憶を辿る。こいつに海老を与えたのはワイン売り場だ。言うまでもなく会計をしたのはその後。ずっと奴は私の足元を並走していたはずだ。つまりこの海老は会計してないのではないか。震えながら私は店長に言った。

「佐藤店長兼船長!こいつです、万引き犯が分かりました。私は何もしていない。」

 店長は何も掴めない様子だった。少し経って海老がカバに乗っている異常事態に漸く気付いた。結局その場で店長は110番通報しコビトカバ(3)は現行犯で逮捕された。飛んだ災難に巻き込まれた私は肩を落としながら帰路についた。

 家に帰るとリビングは冷えきっていた。木造建築であるため家の柱を切り倒してそれを薪としてくべた。薪ストーブは素晴らしい。温まり方が好きだ。すっかり時間も押してしまったのでパーティーを始めた。食べたいものを食べたいだけ食べ、豪勢にワインも嗜んだ。出費しすぎたと感じ、我に返った私は財布を覗いた。入っているのは100円玉2枚と1円玉8枚、それにデン・キホーテで使えるmazaiカードしか入っていなかった。泣きながらテーブルに突っ伏しているとインターホンが鳴った。パーティーに人を呼んだ記憶はない。恐る恐る玄関のドアを開けるとあのコビトカバが二足歩行で起立している。

 「お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃうぞ。」

 思わず悲鳴をあげた。なぜおまえが。しかしこの場を切り抜けたかった私は部屋から買い溜めしていたスナック菓子を3袋ばかり持って奴に渡した。奴はやはり満足した様子で口元をにこっとして帰っていった。

 ハロウィンの日。それは不思議なことがたくさん起こる日。私はその事を頭の片隅に置いた。カボチャは結局食べ忘れたのであった。

 ほら、あなたの足元に…。