超短篇小説

フィクションです。

No.5 タピオカミルクティー (4)

 夕方になっても太陽は沈むことを知らず、それどころか蒸し暑くなっていた。ストラスブールはギンギラギンに物々しい雰囲気を装った太陽をカフェのガラス越しに眺めていた。遥子と話すことこそ出来たものの他の面々とはこれと言った会話も無いままに初日を終えてしまった。このカフェは大学を出て5分ほどのところにそびえ立っている。途中の横断歩道で友だちを作れなかった悔しさや疲れからか、黒塗りの高級車に追突してしまいそうにさえなった。ストラスブールは元々、ありえんウェイで鬼パリピだった。口を開けば周りに20人は集まってきたほどだ。平日は放課後にパーティーを行なうのが日課であった程にド陽キャだった。そんな彼がほとんど口を開くことも無く1日を終えたのだからそれは落ち込みに値する。頼んだ珈琲が届くと80℃あるにも関わらず一気に飲んでやった。彼は猫舌である。悲しい想いに浸っていると手元のアイポンが通知音を立てた。

 「こんにちは、遥子です。どこなうで草?」

 それはあの教室で会話をした遥子からのものだった。ストラスブールはありえん嬉しかった。こいつが日本のファーストフレンヨになることを察したからだ。すぐに返信をした。

 「こんにちは遥子。私は今カフェにいます。それは大学の近いところにある!あなたも来ませんか?」

 「そマ?今から行って草」

 ストラスブールは所々にある日本語らしくない箇所を理解出来なかったものの遥子が来てくれることはわかった。珈琲カップを床に叩きつけながら喜んだ。

 僅か3分後、遥子は入店してきた。自動ドアを割って入ってくるという魔剤キッズっぷりを存分に発揮した。流石のストラスブールもこれには驚き、心臓が3.07秒止まった。

 「早かったデスネ、遥子!」

 「信号無視して草」

 「それは良くないコトデス、気を付けてクダサイ。」

 「そり!」

 全く彼女の使う日本語が理解できない。日本語はある程度は勉強して来たからわかるはずだ。開拓学の授業もしっかり理解出来た。それなのにこいつの喋る日本語は理解に及ばない。なぜだ?ストラスブールは頭を抱えた。

 「だ、誰か氏〜wwwタピオカミルクティーを持ってきてくり〜www」

 突然遥子が叫ぶもんだからストラスブールは恥ずかしくなった。 

 「ご注文お伺いします。」

 「タピオカミルクティーを2個、どうぞ。」

 「かしこまりました。ご注文内容ご確認させていただきます、タピオカミルクティーが2つ。以上でよろしかったですか?」

 「でつ!w」

 数分でタピオカミルクティーは届いた。遥子の奢りでタピオカミルクティーが飲める悦びを知ってしまったストラスブールは心が無敗優勝した。

 「タピオカミルクティー、飲んだことある?」

 「初めてデスネ。この丸いのがタピオカ?」

 「ピンポンピンポン.comで草、タピオカって響きがアレに似てない?」

 「アレは何デスカ?」

 「谷岡、ほら暴力団員のさ。日本人なら誰でも知ってるよ。」

 「初めて聞きマシタ。後でググります。」

 「了解!w」

 その後は他愛もない世間話をするなどして盛り上がった。気が付けばデジタル時計の針は18:00を名乗っていた。

 カフェを出てからは魔剤大学前駅まで一緒に帰った。乗る電車は逆方向だったので草は生えなかった。遥子と別れ電車に乗り込み、家に着くとストラスブールはソファに横たわった。今日という1日を振り返り、これから優勝するであろう学生生活を想像し、ニヤけるのであった。